いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

先人たちへのリスペクトを持ってこのまちに暮らしてほしい。唐澤さんがそう思うに至った暮らしやまちの人と関わりをお聞きしました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:唐澤 晋平さん
9年前にご夫婦で移住し、地域の森を手入れする林業家。
千万町(ぜまんぢょう)町在住

前職で環境教育を実践するNPOで働いていた唐澤さん。ボランティアとしての環境活動ではなく、事業を通して環境に良いことをしながら自然とともにある暮らしがしたいと林業を志し、地元に近い岡崎市の千万町町に奥様とともに9年前に移住してきました。 自分たちで改修した自宅は、それらの思いを体現し、コンポストトイレや太陽光パネル、蓄電池などを導入し、災害時にも困らずかつ自然とともにある暮らしができるようになっています。ペットは犬と猫とにわとり。毎朝、畑とにわとりの世話をするのが唐澤さんの日課です。 私とは、岡崎の中心部で行われているまちづくり活動を通じて知り合いました。 移住者であり、かつ林業という自然とともにある職業人として。唐澤さんならではの仕事と暮らしへの考えを聞くことができました。

お話を聞いた日:2023年8月09日

「このまちに住んでよかった!」と思えるエピソードを教えてください。

唐澤:怜央(今年1歳になった息子)がわが家に来て、とにかくすごく喜ばれてるんです。町内会としてご祝儀をくれたり、それとは別で近所の方がご祝儀をくれました。地域として子どもが来たことをお祝いをしてくれるということは、これは都会ではあり得ないことなのかもしれないなと感じてます。お宮参りの時も、家族で写真を撮ると伝えたら地域の人が嬉しそうに撮影の見学に来て、一緒に映ったりしてくれて。これはこういう場所だからこそのことなんだろうなと思っています。 また、悲しい時も一緒になって悲しんでくれます。飼っていた犬が病気で死んでしまったときに、みんなお悔みに来てくれるんです。最後は庭に専用の車に来てもらって火葬したんですけど、燃やすところまで拝みにきてくれるようなおばあちゃんがいて。一言で言うと家族的なんですよね。大きな家族というか、集落全体が大きな家族的な雰囲気を持っていて、良いことも悪いこともともに喜んで悲しんでくれるということは、僕らは3人家族だけれど、もっと大きなものの中で生きてるという実感があるというのは、とても良いことだと思っています。


最近、個人的にハマっていることを教えてください。

唐澤:最近ハマっていることは罠猟です!免許を取って、やってるんですけど、全然取れないです。本来、ベストシーズンは冬なのですが、いまは鳥獣害対策で行政に許可をもらえれば1年中捕ってもいいことになっているので、箱罠(野生動物を捕獲する場合に用いられる箱状の檻。エサを使って箱の中に獲物を引き寄せ、獲物が中に入ると扉が落ちる仕組みの罠)とか、くくり罠(鳥獣の通り道などに設置し、針金やワイヤーロープなどで作った輪で鳥獣の足や体をくくり捕らえる罠)をこの夏にも仕掛けているのですが、惜しいことところまでいくけど捕れないことがすごく多い。

石原:鳥獣害対策ということは、シカやイノシシがこの地域だと主な獲物ですよね。罠の仕掛け方によってかかるとか、かからないが決まるんですか?

唐澤:それもあると思います。どこに仕掛けるか、どう仕掛けるか、どう罠を使い分けるか。とか、もっとあると思うのですが、それがなかなか難しい。特に、くくり罠は地元の人はノウハウを教えたがらないんで、自分で考えてやらないと捕れないんです。

石原:教えたがらないというのは、何か理由があるんですか?

唐澤:たぶん、くくり罠は個人がそれぞれ磨いてく技術で誰かに教わったり教えたりするものではない、みたいなことなのかなあと思います。箱罠はどちらかというと消極的な捕獲で、森から出てきちゃったやつを捕まえようという感じなんですが、くくり罠はこちらから積極的に取りにいく感じなんですね。そういうこともあってか、やり方教えて!と言いづらい雰囲気がなんとなくあって、これはちゃんとお金払ってでも教えてくれるところに行ったほうがいいなと思い、この週末に研修会があるのでそちらに参加することにしました。自分が本業としている林業と違うのは、木はそこにあるから、やれば確実に時間の中で経験を積めるんですけど、罠猟は取れなかったときの理由がどこなのかを見れないので難しいんです。絶対理由はあるはずなんだけど、見えないので検証できないから、そこが難しいなと感じてます。

石原:見えないというのは、なぜ罠に入らなかったかとか、どうやって罠から逃げていったかとかを目の前で見られないということですか?

唐澤:そう。なぜ入らなかったのかという原因が、その瞬間が見れないから分からない。

石原:そもそも罠のところまで来てないという可能性もあるんでしょうか?

唐澤:罠にはカメラもあるので、来たのか来なかったのかは何となくわかります。でも、なんで罠に入らなかったのかというのは夜だし、そんなに鮮明なカメラでもないので見えないんです。木だったら一連を見ることができるので、どこが悪かったのかという原因究明もすぐできますが、罠はカメラだけではしっかりは見えないことが多いのでイメージするしかないんです。だから思ったように経験を積むのも難しいなと感じています。しかも、毎日やれれば良いのですが、今日いきなり入っても仕事があると解体できなくて困るので、週末しか仕掛けることができていないんです。この半年ぐらいで散々、くくり罠をやっているけど、入らない。

石原:何回ぐらい入ったんですか?

唐澤:くくり罠はゼロですね。。「からはじき」っていう、入りきらなかったけど罠が作動したというのは3回ぐらいありました。

石原:近くに来てはいると思うと悔しいですね。

唐澤:近くには来てはいるし、餌も食べているのですが、捕まるというところがなかなか。使い方の問題なのか、場所の問題なのか、その辺を研究しようと思ってます。

石原:一晩で何箇所ぐらい仕掛けるんですか?

唐澤:今は2つぐらいしか仕掛けていないです。本当にやるなら30箇所くらいまではいけると思うのですが。

石原:すごい数の罠を仕掛ける人もいると聞いたことがあります。

唐澤:そうすると見回りも大変だし。僕は、そこまでアクティブに取りたいわけじゃなくて、本当にこの辺に出てこないだけで良いと思っているので、今は2つぐらいでいいかなと思ってます。食べるのもそこまでたくさんは食べられないですしね。 でも、ジビエのおいしさを知ったのもこっちに来てからです。シカとかイノシシの肉は、どうしても臭いとかまずいというイメージがありましたが、そんなことはないとこっちに来て知ることができました。シカは脂身が少ないからブタのようなうまさではないけど、肉肉しいというかね。捕ったものをどうやっておいしく食べるかというところも今後は研究したいなと思っているんですけど、まず捕るところを今は勉強中ですね。

石原:他の人が捕まえたものとかをもらえたりもするんですか?

唐澤:そういうことはよくありますね。1回罠に入れば本当に何キロってなってくるので、その時はみんなで分け合います。

石原:罠に入った獲物の解体もプロに頼むというわけではなく、自分たちというか仲間で解体するのですか?

唐澤:はい。去年からジビエ肉食べたい人の会みたいなものがあって、罠猟の免許持っている人も持っていない人も入っているんだけど、誰かの罠にかかると連絡が来て、その時に解体現場に行ける人が行って、解体して、分けて、っていうことをやっています。そこに何回か行って一緒に解体しながらお肉をいただくこともありました。 ジビエのおいしさを知って罠猟にハマっているというのが、一番今興味があるところですね。

これからこのまちに移住してくる人に向けて一言おねがいします。

唐澤:僕は、社会としての持続可能性というものと、地域の持続可能性というものは、課題や構造は同じだと思っています。ここのような小さな地域なり、オクオカなり、あるいは岡崎市ぐらいがサスティナブルであるということイコール、地球環境全体のサスティナビリティであると思っていて、今は職業としては林業に従事していますが、もともと環境問題に課題を感じたところから今の職業や暮らしに入っているので、そういう環境負荷が少ない暮らしやサスティナビリティというものがこの千万町なり額田なりで広がっていってほしいと思っているんです。なので、例えば移住をしてせっかく住むならこの地域でしかできない暮らし方を楽しんでほしいと思うんです。例えば畑をやるとか、田んぼをやるとか猟をやるとか。

石原:ここに住んでいるのに都会と同じ暮らし方を求めるのではなくて、ここらしい暮らし方を見つけてほしいということですね。

唐澤:そう。都会と同じように暮らしたいなら別に移住しなくていいと思うので。ここならではの魅力とか面白さというものに共感を持ってもらえると、ここでの暮らしが日々充実するんじゃないかなと思っています。

石原:魅力を見つけてから来るのか、来てから魅力を見つけるのかは、人それぞれありそうですね。

唐澤:それは、移住の目的がどこにあるのかってことにつながりますよね。それは人それぞれだと思うのですが、移住してほしい側の目的というのは働きを維持したいとか、集落を維持したい、祭りを、消防団を、みたいな人手がなくて困っているんだ等と明確にあるんですよね。そこがミスマッチが起こる原因の一つのように思っています。

僕が今、移住してくる人に知ってほしいと思うのは、こういう田舎らしさというか、皆さんが思う田舎の魅力、里山の風景だったり、今の集落の姿というのは、何百年、何千年といういろいろな人の手の中で生まれてきた姿であって、僕らはそこの最後の部分を楽しませてもらっているんだよということなんです。いろいろな人が苦労して治水したり、田んぼを広げたり、道を整備して維持されてきたものの、一番おいしいところを僕らはいただいているだけであって、そういう先人に対するリスペクトを持ってほしいなと思っています。

僕たちが過ごした9年間で、お世話になった人が亡くなるのを何人も見てきています。すぐそこの神社が氏神様なんですが、氏神様っていうのはもともと何かというと、その集落ができてからいまに至るまでの、この集落で生きてきた人たちの魂の集合体みたいなものなんです。最近はあそこの神社を通る度に、あの鳥居の向こう側に知っているおじいちゃん、おばあちゃんが笑いながら怜央を見ている姿をイメージできるんです。そういう感覚で集落の皆さんは生きてきたんだな、というのを感じるし、そこは先祖に対する感謝や、集落に対する畏敬の念というものがあるんだなというのをとても感じています。

どうしたら、このまちの入口が増えると思いますか?

唐澤:これはもう単純にマーケティングの話だと思っています。商売と一緒で、どうしたらうちの商品を買ってもらえるのかというのを考えて、働きかけて、最終的にはファンになってもらう。移住に置き換えると、まず遊びに来てもらう、楽しんでもらう、触れ合ってもらうというところからだんだん深く入り込んでいって、最終的に移住なり、移住に近いような関わり方をしてもらうことを目指す。って感じかなと思っています。これまでもいろいろなイベント等をやってきてるんです。ただ、それが戦略上どこの意図を持ってやっているのかということが考えられていない感じもあるので、もったいないと思うことも少なからずあります。もっとちゃんと戦略を立てた中でやっていくべきだと思います。

石原:地域活性化を目的としたようなイベントを千万町はすごく盛んにやってた時期もあったと思うのですが、それが少なくなってきたのは何か理由があるのでしょうか?

唐澤:そうですね。千万町は茅葺屋敷という茅葺の建物を使っていろんなイベントをやっていました。僕らも移住してくる前に泊まったこともあるんですけど、それを中心的にやっていた荻野さん達は当時は多分40代とかなんです。それが今もう60歳を超えました。そうなると同じ人たちがいつまでも同じことはできないですよね。だから、ここから先はもうちょっと戦略的にやりませんかとは思いますね。

石原:そういうイベントよりも、もう少し継続的に関われるような入口の増やし方のほうが良いのですかね?

唐澤:そうですね。まき餌的なイベントはあっていいと思っています。賑やかしで、とにかく一度来てもらうとかはあっていいんだけど、そこから先につなげていく、その辺の設計をちゃんとする人がいないといけないかなと思います。ちゃんとフォローしながら好きになってもらうというかね。

石原:そうですね。移住したり関係してくれる人には、人数は少なくてもいいからちゃんとこの町の魅力を理解して好きになって来てもらえるように発信していきたいですね。


インタビュアー

石原 空子

岡崎市の中心部で暮らす。川とともにある暮らしを目指すONERIVERの活動を行っている。二児の母。