いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

おいしいぶどうを作ることがこのまちの入り口をふやすこと。と語る中根さんに、自然とともに暮らすことの豊かさをお伺いしました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:中根 伸宏さん
両親からぶどう園を受け継ぎおいしいぶどうをつくるために研究を重ねる。
駒立(こまだち)町在住

駒立町生まれ。小さな頃から植物が好きだったことから、学生時代は岡山県の大学で植物について学ぶ。その中で、農業の大切さに気がつき家業であるぶどう園のマルタ園を継ぐことを決意。大学卒業後、すぐにマルタ園に入社し、以降は30年間ぶどうづくりを続けられています。なるべく、自然に近い状態での栽培を目指し、土づくりなども含め日夜学ばれています。 私とは数ヶ月前にマルタ園さんを訪問させていただいた時にはじめてお会いしました。ぶどうづくりや農園への思い、そしてこれからこの場所をどんな風にしていきたいかなど、中根さんの熱い想いをお聞きしました。

お話を聞いた日:2023年8月10日

このまちの魅力を教えてください。

中根:自然が豊かで、緑が多いということでしょうか。私もたまに岡崎の市街地に出ますが、その度に緑が少ないなと感じます。いま見えている、こういう緑って全部生きているんですよね。さらに土の中には微生物がいたりミミズがいたり、ぶどうももちろん生きています。市街地だと人間は生きているのですが、ビルとか家とか生きていないものに囲まれてみなさん生活している。それが悪いとは言いませんが、どこか人間の心がさみしく、貧しくなっちゃうような気がするんです。

石原:なるほど。確かにここはたくさんの生き物に囲まれていますね!

中根:はい。自然の多い里山の中で、生き物である緑や草を見ていると、人間の本当の心の優しさだったり、ぬくもりを取り戻せるような気がしています。ぶどうを、商業施設に卸して販売することもあるんですけど、時々すごい勢いで電話で怒ってくる人がいるんです。こちらにも悪い所はあるのかもしれませんが、なんか疲れているのかなあと思っちゃいます。こういうところで緑を見ながらゆっくり過ごして、本来の優しさを取り戻していってほしいですね。そういう豊かな自然があるのがこのまちの魅力かな。

石原:ありがとうございます。


このまちで知ったおススメな風景を教えてください。

中根:ぶどう棚の向こう側に見える夕焼けが好きですね。西の空に見える夕焼けがすごくきれいなんです。毎日ぶどうの仕事をし終わって、夕方にそのきれいな夕日を見ると、ああ、今日も1日終わったな、今日も頑張ったな、って思うことができます。

石原:それは子どものころから同じように感じられていましたか?

中根:いや、働くようになってからですね。ぶどう園の経営や人間関係等で悩んで、いろいろと考えるようになってからですね。空を見ると和むというか癒やされます。皆さんにもぜひここにきて夕焼けを見て癒やされてもらえたらなと思っています。


このまちで今後実現したいことを教えてください。

中根:この農園を市街地で暮らす人と里山をつなぐ場所にしたいと思っています。こういう自然のあるところで、みんなにゆっくりくつろいでもらって、先ほども言った通り癒されて。そしてまちに戻って仕事を頑張ってもらって、疲れたなと思ったらまた遊びに来て自然を感じてもらう。この場所に来て、ああゆっくりできたな、自然ってやっぱりいいな!生きていてよかったな!と思ってもらえたらと思っています。

石原:なるほど。このぶどう棚の下にいるだけで確かに癒されますよね。都会の商業施設とは違う空気が流れていると感じます。

中根:そうなんですよ。公園でも、すべり台があったり、いろんな遊具があるとなんか作られた場所で作られた会話しかできないような気がするんですけど、こういう何もない自然の中だと、友達や家族と普段話せないことも、心から本音で話し合えて、それで親子関係がよくなったり、人間関係がよくなっていき、みんなが明るく楽しく生きて、生活できる。だから、この場所がそういう活気を取り戻せる場所になるといいなと思っています。そのために、なるべく今置いてある三輪車や卓球台も徐々になくしていって、ぶどうと対峙できる場所にしていきたいと思っています。それが、今後実現したいことです。

石原:ただ楽しむだけではなくて、心から本音で話し合える場所になるって素敵ですね。


どうしたら、このまちの入口が増えると思いますか?

中根:僕は、おいしいぶどうを作ることがこのまちの入口になるような気がしています。スーパーで買ったぶどうより、マルタ園のぶどうがおいしいと思ってもらえたら、どんな場所で、どうやって作っているんだろう?とか、1回行って見てみたいなと思ってもらえるかもしれない。実際に来てもらったら農園は草がボーボーなんですけど、それにもこだわりがあるので、これがおいしいぶどうの理由なのかな?って疑問に思ってもらったり、考えてもらうことができるかもしれない。そのために、まずは僕の仕事は、みんながびっくりするぐらいのおいしいぶどうを作って、興味を持ってもらうことかなって思っています。そこから農家の苦労だったり僕の想いだったりを知ってもらう機会になると嬉しいですね。

石原:素晴らしいですね。ありがとうございます。

中根:ところで、スーパーなどでぶどうを買われたことはありますか?

石原:はい。あります。

中根:それと比べるとこのぶどうはどうですか?

石原:甘さが全然違いますね。

中根:ありがとうございます。違いに気づいていただきとても嬉しいです。このぶどう園では土づくりからこだわり、おいしいぶどうを作る勉強をしています。あとぶどうの房を大きくしないことですね。

石原:それも思いました!スーパーで売られているぶどうって房も大きいし、粒同士も変形するぐらいぎゅうぎゅうなものが多いですよね。それに比べると、このぶどうは大きさも程よく一粒一粒がしっかり実っている気がしました。

中根:よく気が付きましたね!スーパーのぶどうが大きいのは、なんでだと思いますか?

石原:見栄えがいいようにですか?

中根:それも正解です。あともう一つ理由があって、ぶどうって重さで売っているんですよ。つまり重いほうが高い値がつくので儲かりますね。

石原:そうか、1房単位で買いますもんね。

中根:そう。で、大きいとなんでおいしくなりにくいかっていうと、葉っぱでできた光合成による糖分が、大きい房だとそれぞれの粒に分散されちゃうんです。

石原:1粒に行きわたる糖分の密度がさがってしまうということですね。

中根:そう。デラウェアもスーパーで見るともっと大きくて立派です。葉っぱが同じだとすると、そこの光合成でできた糖分が、大きければ大きい程、それぞれの粒に分散されてしまいます。だから僕はあえて房を小さく粒の数を少なくします。小さい房においしさをギュッと濃縮させるイメージですね。

石原:なるほど!房の大きさにもそういうこだわりがあるんですね。この間お邪魔させていただいた時も、歩きながらぶどうの実をチョキチョキしていましたね。

中根:スーパーのぶどうは試食できるわけでもないので、見た目で売るしかないので見た目が大事なんですよね。そうすると、ぶどうの上の方の肩のところはおいしいんです。だけど下のほうに行けば行くほど味が薄くなっちゃう。そうすると買った人は、最初はおいしかったけど、最後なんか味が薄くなっちゃったね、みたいになります。ぶどうって、上と下、糖度違うんだねって思うかもしれません。でも、そんなことはない。作りようによっては上も下も濃い味のおいしいぶどうができるんです。なので僕はあえて小さくして、肩も下も同じように糖度が22とか23度ぐらいあるようにしたいと思っています。そのことに気がつくとは素晴らしい。

石原:ありがとうございます。ぶどう狩りは何月ぐらいまでですか?

中根:今年は10月10日までですね。

石原:ぶどう狩りするときには、ここら辺のやつを取るとおいしいとかってあるんですか?

中根:どこがおいしいって言ってあげたいですけど、これもまた本当のプロはどこを切ってもおいしい。

石原:さっきの房のお話しと同じで、均等に栄養が行き渡るように作るということですか?

中根:そう。ここがおいしいよ、こっちはまずいよ、っていうぶどう農家の人は下手くそ。なので、あえてどこを切ってもおいしいですよと言いたいです。でも、日のよく当たるところから色んでくるのは間違いなくて、木の先端のほうが日当たりよくて、そこからおいしくなりはじめて、木の元は日当たりが悪くなりやすいですね。でもそこを、均等になるように剪定したりしていくんです。

石原:なるほど。プロは均等に作るんですね。(ぶどうの木を見上げながら)これもう、どこが先っぽか分からないですもんね。

中根:そうですね。この木からずっと来て、ここが多分先端ですね。本当のプロは先端も元も同じぶどうが作れないとプロではないんです。

石原:なにげなく見ているこの景色にも、プロの技が隠されているんですね。今日もこの後、観光バスが来るんですよね?

中根:はい。3時から1台来ていただける予定になっています。

石原:そろそろ来られる時間ですね。お忙しいところ、ありがとうございました。



インタビュアー

石原 空子

岡崎市の中心部で暮らす。川とともにある暮らしを目指すONERIVERの活動を行っている。二児の母。