地元の人の輪の中で素材探しや作品作りをする緑さんに、このまちの「人」との関係の作り方や魅力をお聞きしました。
移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。
お話を聞いた人:嶋田 緑さん
当時、お付き合いをしていた現在の旦那さんが岡崎にお住まいだったことをきっかけに、移住してきた嶋田さん。この地に移住してきて出会った地元の素材を使い、しめ縄などの作品制作をされています。
細光町在住
嶋田さんは、埼玉県行田市生まれで、2012年に移住してきました。製材所を営み木工アーティストとしても活動する夫・庸平さんと娘さんと共に暮らしながら、移住してきて見つけたこの地にある植物を素材に作品を作ったり装飾プロデュースを手がけています。これまで、作品を見たり装飾の現場でご一緒することはありましたが、ゆっくりお話をするのは今回がはじめて。肩ひじ張らず、背伸びせず自然に暮らす中で見つけたこのまちの魅力をお聞きしました。
お話を聞いた日:2024年6月14日
この町に住んでよかったことは何ですか?
嶋田:周りの人たちがすごくいい人だよね。私たち夫婦のことを変わっていると思っている人もいると思うんです。でも額田の人って応援してくれるし、ちゃんと怒ってくれる。それでも夫がきちんと謝れば、またそのあと応援してくれる。お隣さんもすごく優しいし、お隣さんのお隣さんもすごくいい人。人がまずよかった。地元のおじいちゃんおばあちゃんもそういう感じですごくよくて、居心地がよかった。移住者の人たちもくっつきすぎず、仲良いときは仲良くて、お互いの間をとるというか、いい距離感。お互いが結構勝手なことをやっていることが多いから、くっつきすぎるのが苦手な人が多い。
石原:人間としての距離が似ているんですね。
嶋田:似てると思う。あと、この仕事をしたから発見できたよかったことがあって、素材がすごく豊富にあること。夫が最初森林組合に勤めていたので、山主さんとつながりがあっていろんなことに気づけた。しかも、そうやって知った素材を分けてもらえる。山主さんに交渉して「これを取りたいんですけど取らせてもらえませんか?」とか言ったりね。
石原:そういった素材を使って作品づくりをされているんですよね?
嶋田:そうですね。今は、しめ縄に使う藁はミネアサヒと古代米の藁が中心です。私がもともと、しめ縄づくりを始めるきっかけとなったのは、千万町楽校でのワークショプで縄の綯い方も木下(きくだし)町にお住まいの方に教えてもらったんです。その時に、せっかくならその地にあるものを使いたいと思って藁を分けていただき、ミネアサヒの特徴である短い丈に合わせたデザインを考えました。ミネアサヒを作られている方は、お米を作ることが第一なので、収穫量によって今でも分けてもらえる時に作らせてもらってます。 一方で、古代米は品種改良される前のもので、丈が長くて、その分丈の長いしめ縄が作れます。こちらもその長さや育っている時の印象からデザインを起こして作っています。これも、たまたま有機農法を基本に古代米を作られている方と知り合うことができて、今は半分はしめ縄用にと古代米を作ってくださっているので、少しお手伝いさせてもらって藁を分けていただいています。
石原:この地域の素材を伝えていきたいとか、そういうのはあるんですか?
嶋田:伝えていきたいというよりは、めちゃくちゃいいのいっぱいあるし面白いよ。と、シンプルに私が感じていて、私自身がものづくりがしたい。地域の素材だからできる、かっこいいものや面白いものを作って皆さんにお届けして、そこから素材の良さが伝わったらうれしいという感じです。
個人的にはまっていること
嶋田:最近はドンジャラにはまってます。岡崎の市街地に住んでいる子がドンジャラ持ってて、教えてもらったんです。うち、あまりおもちゃとか買ってもらえなかった家で、ドンジャラって存在は知っていたんだけどやったことはなくて、大人になってはまった。今やったらすごく面白いよね。子どもとも一緒にできるし。そして聞いてみたら、近くのママ友も持ってるって。額田でドンジャラ熱を再燃させたいなと思ってるんだよね。そしたら近所のおばあちゃんは、週に1回を麻雀やるってことを知って、今度そのおばあちゃんに麻雀を教えてもらおうかなと。
石原:地域のおばあちゃんとも一緒にできる。
嶋田:そう。週一で麻雀してるって言ってました。非左子さんっていう方なんですけど、ずっとお世話になっている方で私が娘を産んだときにお世話してくれたり、今新築準備中で、そのために住んでる仮住まいも、非左子さんが散歩してそこの家主さんの人柄まで確認して親戚に交渉して話を通して見つけてきてくれたんです。すごくないですか?
石原:すごいですね。仮住まい前に最初に住まわれていた家に入るときはどうやって入ったんですか?
嶋田:前の家は夫がたまたま見つけて住んでたところに私が入ったんですけど、夫が借りるときでも、森林組合に入っているのがすごく大きかったみたい。私も最初に額田中学校の給食のおばちゃんをやれたから、おばちゃん友達がたくさんできて、さらにおばちゃんに「あなた太鼓やりん」って言われて、太鼓のメンバーにも半ば強引に入って、そこでまた地元の人と友達になった。それが図らずも短い期間に地元の人に知り合いがわっとできて。すごくラッキーだったと思っています。最初に住んだ家の場所が気に入って、買いたくて、何回か買いたいですってお話はしていたんです。ちょうどいいタイミングでそこを手放されることになって、買わせてもらって、今はその場所に建て替えを計画中です。
石原:その場所に住み続けたいと思ったのはなにか理由があったんでしょうか?
嶋田:近所の人がすごくいい人ばかりで。近所の人って大事じゃないですか。環境も大事だけど、近所の人も。
石原:たしかにすごく大事ですね!
嶋田:住む場所だけじゃなくて、素材を使わせてもらうにしても、人の顔を知っているって大事だと思っています。この人が育ててくれた苗だからしっかり作ろうとか、この人が育てている、保存している山だから、この素材は生かそうという気持ちになる。これで適当なことはできないなって気持ちになるんです。
石原:なるほど。作品にも、生産者さんや山を管理してる人への感謝とか尊敬とかが込められているんですね。
嶋田:それはもう、もちろん!
どうしたらこの町の入口が増えると思いますか?
嶋田:ハード面で言うと、空き家はあるのになかなか貸せるという人がいないから、そこがなんかもっと借りたい人とか住みたい人と空いている家がつながる仕組みがあったらいいなと思います。
あとは、ちょっと不便、ちょっとめんどくさいを面白がることがポイントかな。私が引っ越してきた頃はコンビニもなかったけど、そのおかげで当時あった近所の山下商店のおばちゃんと話せるようになったし、トマトやさくらんぼを安く箱買いできてよかったんです。今閉まっちゃって寂しい思いをしてます。あと、くらがり渓谷にあるcafe KURAGARI で夏場にパートさせてもらってるんだけど、通勤の一本道で、時々時速30キロぐらいの軽トラに遭遇しちゃうんです。追い越し出来ないし、最初のころは、くそ〜って思ってたけど、その速度で走ると、山とか川とか木漏れ日とか葉っぱが落ちて来くる様子とかが目に入ってくるようになって、あー通勤道路ここでよかったーって思うんです。そういう風に不便を楽しめるって大事。あと、地域にはクリーン運動(草刈り)っていうのがあって、ちょっとめんどくさいなって思っちゃうけど、参加してみると私達は地元じゃないから知らなかった人や今まで話せなかたママさんと話せたりして、結果けっこう楽しかったり、やまどり製作所は、たまにふらっと謎のおじちゃんが立ち寄ったりとかするんです。作業中だと、最初めんどくさいなって思っちゃうんだけど、話してみるとすごい面白い人だったり、あとで野菜とかお菓子とか持って来てくれたりして、また知り合いが増えて楽しくなるんですよ。便利とか、効率いいとかを一旦置いて、額田に身を浸らせてみると、ここの面白さがじわじわと浸透して来て、癖になるので、まずは「不便」とか「めんどくさい」を受け入れてみるといいと思います。
石原:なるほど。解消しようとかじゃなくて、受け入れると見えてくるものがあるんですね。
嶋田:そう。そしてもう少し私ができることで言うと、やまどり製作所を続けていくことかなと思ってます。夫も私も額田の木や植物で生業をさせてもらってて、その素材に自分たちなりの面白さやかっこよさを加えた別のかたちに変えて、岡崎やまたその外側へ持っていってるんですけど、持っていくだけじゃなくて岡崎の市街地やさらにその外側の人たちの反応を額田に持って帰ることで、この地域の人達に、自分たちの身の回りにある素材が最高に面白いことも伝えられたらいいと思ってます。
石原:そうですね。この地域の人たちに自分たちの地域の魅力に気が付いてもらうというのも大切な入口ですね。ありがとうございます。