いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

父から継いだ茶畑で「草生栽培」の茶づくりをする石塚さんに、仕事のこととまちのことを聞いてみました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:石塚 さやかさん
3年前に、お父様から茶畑の経営を引継ぎお茶農家に。まちなかにご主人と、お子さんと住みながら週4日ほど茶畑に通っている。中金町に通う。

祖父、父の作るお茶畑に幼少期から通い、大人になってからも収穫時期のみお手伝いをしていた石塚さん。お父様が年をとり、お茶畑の仕事を辞め、草が生え耕作放棄地のようになったお茶畑を見て、自分の見てきた風景を守りたいと一念発起して事業継承を決めました。今は、地域の共同製茶場で地域の人にもいろんなことを教えてもらいながら、自身が実践したい極力自然のままに育てていく草生栽培でお茶畑を運営されています。毎週金曜日にお茶畑を開放するファーミングフライデーや、イベントの実施などこれまだになかった新しい取り組みで、まちの人や若い人に農家や地域の魅力を伝えるための活動も実践されています。

お話を聞いた日:2024年6月14日

このまちで住んでよかったエピソードを教えてください。

石塚:周りのお茶農家さんたちが、みんなよくしてくれることがすごく嬉しいですね。

石原:他の農家さんたちとも関わりが深いんですね。

石塚:そうですね。私のおじいさん世代がみんなで組合を作ってくれて、製茶場を建てたんです。今は父世代にあたる人たちが、定年退職後にそこで働いている。その次の世代である私にもいろんなことを教えてくれるんですよ。みんな兼業農家で20軒ぐらいあるんですが、みんなよくしてくれます。

石原:定年退職した後ということは、それまではみんなお勤めしていたということですよね。お茶屋さんとして専業で生業としている人は、自分のところの製茶工場を持っているから、そうでない人が集まって共同の製茶場を作っているっていうことですよね。

石塚:そうですね。

石原:おじいちゃんの代はそうじゃなかったんですか?

石塚:おじいちゃんの代も兼業農家ですよ。今は後を継いでいくタイミングにみんな差し掛かっていて、みんなどうするべきか迷っている。

石原:それは、お父さん世代が息子に継がせようか迷ってる?それとも、さやかさんの世代が迷っている?

石塚:どっちも迷っていると思いますよ。それで私が先陣を切って父と代替わりした。私が最初なんですよ。製茶場も3年前からシフト入れてもらって当番の日は製茶場に入っています。

石原:知っている人もいるんですか?

石塚:父はここで育ちましたが、独立して別の場所で私は育ったので、あんまり知らないかな。父の知り合いというか、父の近所の人たちですよね。私からすれば、身近な友達もいなければ同級生もいないし、知り合い的な人は本当に近所に顔を少し知っている人がいるぐらいで。だけど私がお茶畑をやることを、みんなに受け入れてもらっているし、教えてくれますよ。うちは「草生栽培」ってやり方をしていて、これはほかと違うやり方なんですよ。本当だったら「草を生やさないで」とか「混ぜないで」とか思っていると思うんだけど、そういうやり方も受け入れてくれている。こうしなきゃならないというところをやらせようとはしなくて、私のやり方を認めてくれているのがありがたいなって思ってます。

石原:自分たちの世代の人がほかにも来るかどうかは、ここ5年、10年が瀬戸際ですよね。

石塚:うちはすごく広い畑を持っているので、やめるのも大変だけどね。小さければ引っこ抜いちゃっている人もいるし、終わりにしちゃう人もいる。私はやるという選択肢をしたんだけど、まだチャレンジ中だからそれが吉と出るかはわからない。

石原:チャレンジする上で、こういうふうになればいいなって考えてることありますか?

石塚:循環する仕組みができればと思っています。草生栽培をする、それを飲みたい人がいる、それを見に来た人がいる、バイトで来たい人がいるという人が増えれば、この景色を守ることにもつながっていくんだと思うんです。その辺、循環する仕組みを自分の中で考えてやっている途中です。


おすすめの風景を教えてください。

石塚:収穫直前のゴールデンウィークのお茶畑の風景ですね。新芽の萌黄色がめちゃくちゃきれいだし、輝いている。まだ雑草も少ないし、その時期は見渡す限り若い萌黄色。

石原:たしかに、この辺を車で走ってもお茶畑の緑がきれいな季節ですよね。雑草が増えて、大変になるのは夏頃からですか?

石塚:そう。5月の終わりから順番に、春の終わりの雑草、夏の雑草、秋の雑草が順繰りに入ってくるんで。放っておくと肩ぐらいになって、花も咲くし、それが飛んでいって隣の人に怒られちゃうから、本当申し訳ないと思いながら頑張って抜いてます。その辺の管理が難しいです。でも最近イベントで一緒に草取りして、そのおかげでめちゃくちゃきれいになったんです。来てくれた皆さんが草引いてくれたから。

石原:それだけ大変な思いをしてでも草生栽培にこだわりたい理由ってなんですか?お父さんがやりたがっていたというのは1個あると思うんですけど。

石塚:除草剤を普通に使う農法だと、薬が土に染み込んで川に流れ、きっと海にも行っているんじゃないかなと思う。だからそれは避けたいというのはあるかな。私も自然好きなんで、食べるときに安全というのはもちろんのこと、アサリ取れないよとかワカメが育たないよとかっていう問題になにができるかなって。温暖化とも言われているけど実際よく分かっていないみたい。でも山から、こっちから流している何かがある可能性もゼロじゃないかなとは思っています。

石原:この辺は農薬やらなくても、そんなに虫はついてないですよね。

石塚:私は全然ないと思う。父は、それは自然農法をやってきたから木が強くなって虫が寄らないんだって言ってくれるけど。私まだ3年目なんで、何とも言えない。肥料も私はやってなくて、草を抜いて、枯れて落ちて、土の中の微生物が土に戻してくれる、それが肥料という考え方です。

石原:肥料をやるとしたら、タイミングはいつなんですか?

石塚:肥料を撒いてる人たちは年に2回まきます。夏や秋も収穫と製茶をするだけの収穫量が必要だから。うちは6月の芽が最後の収穫になるので、自然な芽吹きをしているのが茶畑へ来ると違いがわかります。

石原:ファーミングフライデーっていうかたちで、お手伝いを呼んでますよね。どれくらいの人が来てるんですか?

石塚:本当いろいろですよ。季節ごとのリピーターもいらっしゃいますし。

石原:そういう人が増えてくれるといいですよね。

石塚:そうですね。その日はお茶も買えるようにして、作業中のお茶は無料で振舞ってます。作業の合間の休憩に、ここで育ったお茶の味見も兼ねてます。、どんなところで育ってどんな味のお茶かを知ってもらうためにファーミングフライデーの日に見に来てほしいなと思ってます。買わなくても、間口広くいろんな目的で来てくれるといいな。


どうしたらこのまちの入口が増えると思いますか?

石塚:私にできることは都市部の人たちが来てもらえるイベントを定期的にやっていくこと。その来てくれたお客さんが納得して帰っていくというか、この場所とか、提供するものに満足して帰っていって、よかったよね、って思ってもらえるような体験づくりをしていくことかな。

石原:今まで印象的だった来訪者とかお客さんはいますか?

石塚:お父さんの代から来てくれていたお手伝いさんが、もう年齢も年齢だから今年は行けないと思うって言われたんですね。それで今年初めてアルバイトを募集したら5人ぐらいが、インスタ経由で来てくれました。その中には、就業規定があるからボランティアなら行けますっていう人もいましたよ。

石原:男女とか年齢層はどんな感じでした?

石塚:インスタはみんな女性でしたね。全体的に思ったのはみんな意外と緑茶好きなんだよねっていうこと。それに気づけた。お金を払って体験に来てくれる人もいるし、ボランティアでもいいから来たい人もいる。いろいろな層の人がいて、中には子どもに体験させたい人もいる。お米作り体験やったことがあるから、次はお茶をやってみたいっていう人もいる。自然体験だよね。シニアの人だと、茶道を昔やっていて、抹茶は知っているけどお茶はどう作られているか知らないから知りたいって人もいましたね。知的好奇心で来てくれてる。

石原:やってみて、いろいろ分かってきた感じですね。アルバイトはそうやって来てくれたら人手は足りそうですか?本当はもっと来てほしいですか?

石塚:ちょうどいいぐらいかな。実際来てみて、機械も重いし作業も楽じゃないし、数時間くらいで疲れちゃうっていうこともやっぱりありますよ。それはそれで私はいいと思っていて、次は別のことで関われるかもしれないしね。来たいと手を挙げてくれた人には、一度はみんな来てほしい。すごく集中して、しゃべらず、やってくれる人がいて「動的瞑想」ってヨガの言葉を教えてくれた。何も考えずにクリアになる、みたいな。私も草取りはすごく好きなんですけど、ぜひこの気持ちよさ、草を引いていくという楽しさを体験してほしい。ヨガだと思ってね。無心になれることって普通ないじゃないですか。常に携帯のこと気にしたり、子どもとか晩ご飯どうするかとか。何も考えないあの時間は現代人には貴重だと思う。絶対おすすめ。

石原:作業に没頭するっていうのは貴重な体験かもしれません。それも一つのいい入口ですね。



インタビュアー

石原 空子

岡崎市の中心部で暮らす。自然と人との関わりの中で生まれた文化や暮らしを探求中。2児の母。