いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

教員として勤め上げ、今も地域活動を精力的に行っている平木さんに、山と自然、暮らしのことを伺いました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:平木 教男さん
定年退職まで、教員として地域の子どもたちと関わる。その後、林業クラブや地域の「みつわ会」に属し、現在閉校になっている大雨川小学校「みつわ広場(旧大雨川小学校)」の管理などを「みつわ会」の一員として行い地域活動に精力的に関わっている。
東河原町在住

東河原町で生まれ、大学卒業後は教員として地域の子どもたちを見守ってきました。退職された今もなお、地域活動に精力的に関わり地域を盛り上げ、また代々ご自身の山を守られてきたことから林業クラブでの活動などを通じて若い世代との橋渡しもされています。これまでも何度か畑や田んぼで一緒に作業をさせていただいていましたが、改めて思いをお聞きするのは今回がはじめてでした。ご自身の興味や趣味を楽しみながら、休耕田対策などにも取り組まれています。

お話を聞いた日:2024年5月30日

このまちの魅力をおしえてください。

平木:山だね。もうちょっというと、みんなが山を大事にしてきたことは魅力だな。まず、ここらの特徴的なことをいうと、野生動物がやたら多いんだわ。猪垣(ししがき)が全長60キロぐらいあるの知ってるよね?

石原:はい、知ってます。

平木:北海道から沖縄まで猪垣ってあるんだけど、一番発達しているのはこの辺なの。それは裏返すと。

石原:それだけ獣がいる?

平木:そういうこと。明治のころに山本源吉という人がいて「山に木を植えよ」って言った。サル、猪、鹿が多くて、収穫物を全部取られちゃうから、百姓をやってる村の人の多くはみんな貧乏人ばかりだった。それで山本源吉は生活改善をしようとしたわけ。現金収入をちゃんと作ろうってね。田畑をやっても獣害の被害にあうから、山に木を植えようってことだね。スギ、ヒノキだけじゃなくて、クヌギとか広葉樹もバランスよく植えましょうという提案をした。それが明治28年ぐらいからスタートした育成林業(植林して育てた木を収穫する林業)です。このあたりを含む宮崎村はその育成林業を中心的に行って、全国的にもとても豊かなところになったと。例えば宮崎中学校は全国のブラスバンドのある学校で一番小さい学校だった。木を売って楽器を買ってたんです。

石原:お金もあったのだと思いますが、それで楽器を買うという選択はなかなか文化的ですよね。

平木:そうでしょ。とにかく昔のここらの教育は変わっていたんだよね。このまちの魅力に話を戻すと、昔から山を大事にしてきたということだよね。その流れを今も引き継いでるのが森林組合と林業クラブ(額田地域を中心とする林業研究グループ)だね。森林組合っていうのはこのあたり河原町(かわはらちょう)(現・東河原町)からスタートしたわけ。河原町の土木組合っていうのがあって、山の一番下の入口のところ、あそこに発電所があって、そこに製材機があったの。その製材所が森林組合のスタートなのかな。

石原:明治に植えた木が伐れるぐらい大きくなったということですよね。

平木:そういうこと。山本源吉のすごいところは、明治36年度ぐらいから100年計画でいくら儲かるかってシミュレーションしてたの。そのぐらいのこと考えてて、すごいよね。

石原:今でも林業クラブの会員さん、多いんですか?

平木:今年新入会員が13人ぐらいいる。

石原:すごい。なんで?

平木:地域おこし協力隊の服部さんがいろいろと声を掛けてくれたのが一番だと思うけど、若い女の子もいっぱい入ってきてるんです。林業クラブは、いわゆる山主たちの集まりで、目的は林業についていろんな勉強をしようというか、同じ仲間だからみんなで共有して、情報交換をしていこうよというのが一番の趣旨ね。それから林業の振興を図ろうというのがあって、その部分で、今回の若いメンバーは山主ではないけれど一緒になって間伐の体験をしてもらったり、木を切るとか林業体験をしてもらいたいと。

石原:啓発活動みたいな?

平木:そう。そういうものとか、自分たちで視察に行ったり。それから「ぬかたまつり」とか「農林業祭」とかのイベントに出店して、あとは勉強しようということで、今年はドローンの研修会。おばあちゃんたちがドローンを操縦して。ドローンって最近いろんなことに使えて、林業でも使えるんだよね。それから今は、スギ、ヒノキが低迷してきているんで、新しい樹種、センダンっていうのを植えようとしてるの。

石原:新しく入った13人というのは、勉強したり、啓発活動とかを一緒にやりたいということで若い人が入ってきてくれたということなんですね。

平木:そうだね。われわれとしても新しい刺激になるよね。新しい発想で「こんなことができるよ」って教えてもらえるしね。


最近、はまっていることを教えてください。

平木:僕はもともと生物学の受精生理学が専門なの。それでメダカの研究をずっとやってた。僕の名前を調べるとヒメダカに関する論文がネットに出てる。今は植物にも興味があるんだよね。この間まで朝ドラでやってたじゃん、牧野富太郎の話。なんかあれが自分みたいな気がしてさ。あんな感じでいつもほっつき歩いてる。

石原:インタビューの前に、このあたりの植物をご説明いただいたのもそういうことですね。

平木:そう、その一環です。この辺にあるものがものすごく面白いものがたくさんあってそれを調べるのにはまってる。

石原:それは種類を調べたり、特徴を調べたりとか?

平木:そういうのもあるけど、すごいものを見つけたりもするんだよね。公表できないものもあるよ。

石原:外来種とかそういう?

平木:外来種ならいいんだけど、公表すると人が来て獲られちゃうようなものだよね。あと、食べれるものがいっぱいあるのもすごい新鮮で面白いよ。

石原:どういうものがありますか?

平木:いっぱいあるけど、昆虫とかね。カミキリムシの幼虫食べたことある?テッポウムシっていうんだけど、スマホで「食べられる昆虫 ランキング」って調べるとランキングが出てくるんだけど、1番がカミキリムシなんだわ。

石原:幼虫を炒めて食べる?

平木:そうそう、幼虫をこんがり焼く。超デリシャスなんだわ。こんなうまいものはない。めちゃめちゃクリーミーで、甘くてさ。山の中にはおいしい昆虫がいっぱいいる。山野草も美味しいし、やたらあるよ。

石原:山野草はどんなものがありますか?

平木:こっちの方だと枯れちゃうんだけど、コシアブラは山菜の女王だよ。千万町、木下、片埜、下山のほうによく生えてる。

石原:へー!こんなに近いのに生えている植物が違うんですね。

平木:地質が違う。中央構造線(九州東部から関東へ横断する世界第一級の断層)の北側には領家変成岩帯があるんだわ。その領家変成岩帯が風化したのがここ。木下町から向こうは花崗岩の風化したサバ土ってやつで、そっちはコシアブラには抜群なんだわ。こっちのエリアだと、タラの芽を出荷しようと思って大量に栽培してる。ワラビも出荷してるじゃん。いっぱいある休耕田をなんとかせないかんと思って、いろいろ実験してる。山からいいワラビを取ってきて、畑で培養して、ポット苗を作って、50センチ間隔で2,000個植えたら、1年でワラビだらけになっちゃった。

石原:出荷はできたんですか?

平木:出荷してるよ。

石原:ワラビは一年草じゃないですよね?

平木:ワラビは植えたら30年ぐらい。だから、なんとか耕作放棄地を解消しようと思っていろいろやってて、この頃いろんな付き合いも出てきて、その中の一角を愛知大学の学生が、あそこのゼミがここの田んぼをやらしてくれって言ってくれたもんで、そこをまるっとおまかせ。これからみんなで研究しようと。これにはまっている。だから、広く言えば、耕作放棄地対策にはまってるってことになるのかな。


どうしたらこの町の入口が増えると思いますか?

平木:関係人口をとにかく増やすしかないと思うね。子ども連れが一番理想だけど、老後に住みたいって人でも大歓迎、僕はね。だって賑やかになるじゃん。あとの人生を満喫してもらえばいいしさ。これから世の中の半分以上が老人じゃない?老人天国になって、みんなで楽しめばいいかなって思うんだよ。そうすれば、死んじゃったら次の老人が入ってきたらいいしさ、その循環できるじゃん。だから老人の循環でもいいんじゃない?

石原:確かに元気なおじいちゃんおばあちゃん来れば孫が遊びに来てくれたり、そうしているうちに、若い人がいいところだなって思ってくれる人も増えるかもしれない。

平木:そうそう、そうやって活気ある場所になってほしいよね。そういうことでいえば、耕作放棄地とか空き家があるのってダメだよね。なんとかしてほしいんだわ。

石原:空いてすぐに何かをやるほうがいいですよね。空いてしばらく経っちゃうとどうしても。

平木:そう。いつまでもボロ屋を放っておくなよって思うんだけど、僕もそうしちゃうかもしれん。ここ、水がすごく出るしさ。山も近いから、がけ崩れもあり得るし、日当たり悪いし、住みたいと思う?

石原:私はここの川がすごく好きだから、いいなっていつも思ってますよ。

平木:でもすごく雨が降ったときは、キャインキャインだよ。

石原:そうですよね。それに、確かに日当たりはあまりよくはないですよね。

平木:大代(おおじろ)地区と雨山(あめやま)地区は隣り同士だけど全然違うでしょ?大代は明るいじゃん。山が低くて日当たりいいじゃん。

石原:でも川はちょっと遠いですよね。

平木:そうだね。細かく見てると、良い悪いあるないって話になっちゃうけど、広く見てこの地区って考えると、いいところはかなりあると思うよ。

石原:そうですよね、せっかく魅力的な場所なので、平木さんの言うように賑やかになればいいですね。ありがとうございました。



インタビュアー

石原 空子

岡崎市の中心部で暮らす。自然と人との関わりの中で生まれた文化や暮らしを探求中。2児の母。