いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

毎週のように鳥川へ訪れ、お米のおいしさをまちに伝えている大久保さんにこの場所の魅力をうかがいました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:大久保 豊子さん
10年ほど前から、オクオカの鳥川地区でトレッキングの講師として活躍中。また、オクオカのお米の魅力を伝えるために「ぬかた炭焼き団子」やお米の販売を市内各所で行っている。鳥川町に通う。

10年ほど前に知人の紹介で鳥川町の山に登り魅せられて以来、頻繁に訪れるようになり現在では週に2,3回ほど通っているという大久保さん。地元の人たちが作る農産物のおいしさに感銘を受けますが、担い手不足などで次々と生産者がいなくなる状況を目の当たりにします。その事実をたくさんの人に知ってもらい、購入につなげたり生産者のふるさとへのプライドを取り戻すことにつながればと、現在は地元の農家さんからお米を買取り販売を行い、そのお米を原料にお団子を作り「ぬかた炭焼きだんご」の製造販売をしています。地元で大切にお米を作り続ける農家の方たちと、お団子を笑顔で頬張る子どもたちをつなぐパイプ役になっています。私とは、まちなかの乙川での活動を機に出会ったのが4年ほど前。以来、大久保さんの届けてくれる美味しいものとその想いにいつも感激しています。今回は、改めてこれまでの彼女から見えている鳥川の魅力と、未来への思いをお聞きすることができました。

お話を聞いた日:2024年5月30日

このまちの魅力を教えてください。

大久保:ここ鳥川地区って60戸ぐらいなんですけど、地域としてまとまるには一番いいらしいんですよ。だからかまとまりもすごく感じるし、ここの人はみんな優しいので、私のような外から来る人のことも受け入れてくれる。人が魅力的ですよね。

石原:どういう時に受け入れてくれてると感じるんですか?

大久保:例えばホタルまつり。この道にもずらっと車が停まって、夜中わいわいしてる。ホタルって、19時半から出て1時間半で飛ばなくなって1時間お休み。また1時間半出て1時間お休みで、っていう、実は3回公演なんですよ。見に来る人は夜遅くにきて、ホタル見て、ぺちゃくちゃしゃべってて、またホタルが飛び出すからワーってなる。都会で夜に知らない人がワーワーやっていたら警察に通報するよね。「うるさいぞ」ってなるじゃないですか。ホタルまつりをもし行政が主導していたら、みんないい加減にしろって怒ってますよ。住民主導だからやれるんですよね。ホタルまつりとかでいろんな人が来たり、私が入ってきたりしても、受け入れるという土壌がまずあるのかな。みんな見て見ぬふりじゃないけど、受け入れてくれるんです。

石原:60戸の規模感の話がありましたが、あまりに規模が小さすぎると目立つのかな?

大久保:小さすぎると「あんたふらふらしてるけど、引っ越してこんのか?」「家はどうなっとるんだ、結婚はせんのか?」っていちいち言われると思うんです。そういうのもない。

石原:いい距離が保てる。

大久保:そうなんですよね。偶然だけど、私はすごくいい場所に巡り会えたと思っています。でも、あまりウェルカムだとずかずか来ちゃうし、それはちょっと嫌じゃないですか。「いてもいいよ」って距離感。「大久保さん、もうすぐ梅ができるんで取りに来ない?」って言ってくれる人がいたりね。ああ、すごいなって。入り込んじゃうと多分声かけてくれない。

石原:外側から来てるからこそっていう距離もあるんですね。

大久保:そうそう。たまたますれ違った人に「大久保さん、ホタルまつりお手伝いありがとうね」とか言ってくれて、そしたらその旦那さんが「うちのおっ母が大久保さんが行ったからお前もはよ手伝いに行けって言われたよ」って。そういうのってよそ者だからいいんだよね。

石原:住んでると「大久保さん、ちょっと来るの遅いよ」って言われちゃうかもしれない。

大久保:言われちゃいますよ。だからそこは、そういう人がいてもいいのかなと。


このまちが今後どうなったらいいと思いますか。

大久保:今後どうなるかって問題って、日本全国共通だろうし、なんだったら世界中にそういうところはあるよね。人口はどんどん減っているから、過疎だからっていう問題は、止めようがない気がする。

石原:なるほど。鳥川って場所を見てみても、60世帯が30世帯になり、10世帯になっていくかもしれない。そうやって消滅を待つしかないのか、それともなんとかして食い止めるのがいいのか。

大久保:インバウンドしかないんじゃないかな。私もしょっちゅう海外行って、自分たちでスーパー行って、料理して、地元のものを食べたりとか、地元の人が乗るローカルバスに乗って移動したりっていうことをして、いろんなものを見ているんだよね。そういう人たちにとっては、鳥川は面白い場所だと思う。

石原:たしかにそれはお互いに悪いことじゃないかもしれないですよね。

大久保:それで、コロナのときには海外にもいけなかったので県内の小さい山とか低い山に行ったんですよ。そうすると、こんなきれいな景色、こんなきれいな渓谷があるんだって、すごくびっくりした。でもそれは、ごく一部の登山者しか知らない。世界中すごい景色はあるんだけど、日本の山とか水の景色って全然違うんですよね。これはすごく感動する人多いと思う。

石原:それは外国人が見ても、ということですか?

大久保:もう絶対に感動すると思います。そういうのは大体、ダムの上のほうなんですけど、でっかいトラックみたいな石がごろごろしている中にきれいな渓流があるんです。その上に紅葉がずーっと屋根になって、鳥肌立つし涙が出るような、そういう景色が広がっています。今は登山者でもそういう道はあまり歩かないんですけど、私はそういう場所が好きなんです。そういう場所はオーバーツーリズムで人がわっと入っては来てほしくないんです。でも誰も来ない場所になるのも困る。ほどほどでいい。でも、それが一番難しいんですよね。ごった返すほど来るか、ここみたいに全く来ないかどっちかになっちゃう。それをほどほどに来てもらって、ちゃんとお金を落としていく場所になっていくといいと思います。

石原:ほどほどが一番難しいですよね。

大久保:それには、ここの良さをちゃんと伝えることが大事ですよね。知人から「大久保さんがよく話がするから鳥川行ってみたけど、何もないところだね」って言われたことがあって。でも、それは知識がなければ何もないところに見えちゃうってことなんですよ。だから、そういう目を養ったり知識を得られる機会をみんな求めるようになるんじゃないかな。海外の人だけじゃないですよ。日本人が忘れていっちゃっているからそれを思い出さなきゃいけない。そういう意味でも、本物のおいしいを伝えたい。例えば、私は米が結局一番だと思うんですね。昔はお給料をお米で払ってたわけじゃないですか。何万石って言うし。ヨーロッパは塩だったんですよね。サラリーマンの語源はソルトらしいですよ。ということは、いかに日本のお米というのは大事なものだったのかと。

石原:それさえあれば命をつなげるものということですね。

大久保:そう思うと、お米は最後まで放しちゃいけないおいしいものだと思います。よく「大久保さん何が好きなの?」ってよく聞かれるんですよ。何が一番食べ物の中でおいしいのかなって思ったとき、これだけ毎食食べても食べ飽きない米が一番うまい。魯山人が「料理人が酒飲みのあてばかり熱心に作るけど、米をちゃんと炊けないやつはダメなんだ」って書いていた。本当においしいものは米だと。米はおいしいから最後に出てくる。だって落語でもトリは最後に出るでしょ?

石原:お米のおいしさをみんながちゃんと思い出す。

大久保:そうだね。話がだいぶんそれちゃったけど、おいしいものとか自然とかは日本ってすごく素晴らしいから、海外に向けて自然の良さを伝えながら、ほどほどに来てもらうのを目指すのがいいってことだね。


どうしたらこの町の入口が増えると思いますか?

大久保:こういう地区に人を来させることって必要なの?って。思ってしまいます。

石原:住む人ってことですよね。でも田んぼのこととか、水源保全、森に誰も手を入れなくていいということではないじゃないですか。この中山間地の機能をどう維持するか。

大久保:コロナのとき、みつわ広場の平木先生のところで川遊びをやったじゃないですか。あのときにに名古屋とか東郷とか、岡崎の中心部からも来てくれてましたよね。そこで話を聞いていると、みんなふるさとがないんです。だから私はこの場所が岡崎のふるさとになればいいと思ったんですよね。夏のホタルが終わった頃からはもう暑いから、こういうところで川遊びしたりとか。夏休みは親も忙しいし、こういうところでみんなで1週間、2週間ぐらい合宿して。そうやって岡崎の田舎にしたらいいと思うんです。ずっと住まなくてもね。ここに来て川で遊んで、ここら辺で走り回ったらいいと思うんです。

石原:そうですよね。1回来ればプールより絶対こっちの川のほうが面白いことが分かる。でも、田舎だったらみんなふるさとではないですよね。

大久保:川があって山があるだけじゃなくて、じいちゃんばあちゃんのような人が、関係なく褒めたり怒ったりしてくれる人がいるっていうことですよね。そういう関係性が、街の方にはもうないですよね。岡崎住民のふるさと、夏になったらみんなで川に入って遊ぼうとか。

石原:そこでいくらかのお金を、オクオカに落としてもらって、お祭りの維持とか自治の維持とか川の整備とかに充てていく。誰か個人に入るんじゃなくてその地域に落とすということができれば維持できるような気がしますね。

大久保:地元の人たちも、年がら年中じゃ疲れるから、夏限定でね。

石原:確かに。お盆とかで子どもたちが田舎に帰ってくるとおばあちゃんたちめっちゃ疲れてるもんね。やっと孫が帰った、ってほっとしてる。

大久保:このときだけは来るよ、っていうのがあると、みんな張りもありますもんね。来てよかった、帰ってよかったってなるから。

石原:人が増える、入り口の1つですね。夏とか冬とか限定的に開く。

大久保:私は行政でもないし、ここでお店をやっているわけじゃないけど、ずっと関わってお米をやっているから色んな人が仲良くしてくれて、関係が密になっていくんだと思います。声の大きい人だけではなくて、ここに暮らしている人たちの声を聞かないと、やれないんですよ。そうじゃないと、経験もあって人徳もある人たちがみんな離れていっちゃうんですよね。そこがすごく難しいですね。

石原:頑張りましょう。ありがとうございました。



インタビュアー

石原 空子

岡崎市の中心部で暮らす。自然と人との関わりの中で生まれた文化や暮らしを探求中。2児の母。