いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

生まれも育ちもオクオカの白井さん。変化してきた地域への思いなど、この場所でずっと暮らしているから感じていることをお話しいただきました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:白井 仁士さん
宮崎町に生まれ、大学進学の際、この地を一度離れたものの、その後家業を継がれ現在も宮崎町でご家族と暮らしながら地域の木材を挽く製材所を営まれています。
宮崎町在住

宮崎町生まれ。ご両親が営まれていた製材所で育ち、隣接して流れる川で遊ぶ子ども時代を過ごしたのちに大学に進学し、自動車関係の会社に就職。その後、体調を崩されたお父様の跡を継ぐ形で製材業を営むことになりました。 これまで、白井さんの地域の木材や山への思いを聞く機会はたくさんありましたが、今回は地域に住むひとりとして、まちや人への思いをお聞きしました。お仕事を通じて、地域の木をまちに届けている白井さんならではのこのまちの入口への考察をお聞きすることができました。

お話を聞いた日:2024年3月01日

このまちの魅力を教えてください。

白井:やっぱり川と山だな、子どもの頃から遊んでたからね。小学校どころかもっと小さい頃から、親父に川の深いところまで引っ張っていかれて、ぎゃーぎゃー言ってた覚えもなんとなくある。「こんな深いところ行けるかや」って思っても「いいから来い」みたいな感じ。小学生、中学生の時は当たり前のように、学校が終わったら同級生とすぐ川に行く。40日の夏休みの間、35日ぐらいは川にいた。川で遊んで、寝て、夕立が降ってきて起きるみたいなパターンが普通というか、人間の夏の過ごし方だと思ってた。

石原:じゃあ本当にこの町の良さとしては山と、流れている川。3人の息子さんも遊んだって言ってましたよね。

白井:そうだね。息子も「夏っちゅったら川に入るもんだ」と。街に住んでる友人も呼んで、みんなで雑魚寝で寝てね。

石原:なるほど。いまは、白井さんはお休みが土日ですよね。どんなふうに過ごされてるんですか。

白井:休日は買い物で、まちに出るね。ここは田舎とまちのいいとこ取りをしているのかもしれん。まちに住みたいとは思わないけど、まちの良さも分かるよ。何でも揃ってるしね。だけど1泊2泊して帰ってくるぐらい。まちは見に行くところだね。

石原:普段のスーパーへはどこまで行かれるんですか?

白井:洞町のピアゴ。あとは、サンヨネとかクックマートとか。

石原:息子さんは3人で一番下の子が高校生ですよね。送迎されてるって言ってましたよね。

白井:うん、本宿まで。妻が毎朝送ってくれてる。

石原:そのついでに買い物行ったりするんですか?

白井:ううん、パートで9時には出勤しとるから、買い物は別で行ってるよ。パートに行って夕方4時に帰ってきて、6時、7時に本宿に迎えに行って。ここら辺に住んでると送迎の煩わしさはあるかもしれん。

石原:塾とか行ってるんですか?

白井:塾は全然考えんかったな。英語は石原町に教えてくれる人がいるもんで、3人とも教えてもらったり、習字とかやったけど、学習塾は全然3人とも結局考えんかったし。

石原:部活もやると、送迎が必要って言いますよね。


このまちは今後、どうなると良いと思いますか?

白井:人付き合い、人との距離感が、いままで通り変わらないっていうのがまずは一番いいんじゃないかな。田舎ってなんだかんだでやらなきゃいけないこと、消防団とかお祭りとかあるけど、だからといって毎日他の人たちと接しているわけじゃないじゃん。だから逆に距離間もよく保てるような気がする。好きなことやったり、仕事やったり。いざというときは頼りになるし、普段は忘れてもいいぐらい。忘れてもまた会えば思い出すから。

石原:絆があればってやつですね。

白井:ちょうどいい距離感を保てるから田舎っていいんじゃないの?って思います。まちって100か0になっちゃってると思うんだよね。挨拶しなかったら「何をやってるひとなんだろう?」って隣に住んでいるのに怖い人になっちゃったり。ママ友とランチに行くのも、続きすぎるとそれが煩わしくなる。ずっとランチいかないといけない、ずっと合わせないといけない。それをやっとかないと、弾かれちゃうんじゃないかと不安。「ごめんね、今日は忙しいから返事できないよ」って言ったら「あの子全然最近来ないね」って言われちゃっとるかもしれん。

石原:田舎はそういう意味ではここっていうのが決まって、それさえやっとけば普段はある程度距離があっても大丈夫。

白井:田舎は逆にちょうどいい距離感を保てるんじゃないかなって、年食ってからそう感じたよ。若いときは、こっちのいろんなことを煩わしく感じたよ。役員会に行ってもじいちゃんばあちゃんが主導権を握るもんで、言いたいことが言えない、やらざるを得ない、理解もできていないもんで、やる意味がよく分からない。なんでこの祭り、面倒くさいのにこういうことやるの?ってさ。

石原:田舎での、世代間のギャップとしてはありそうな話ですよね。

白井:でもさ何かあって怒られたとしても、それが次の年にも話題になって「この間ケンカしてたよな」って話になってまた盛り上がったりする。それで信頼関係ができて、距離感も保てるんだなと思って。お互い安心できるっちゅうかね。「あいつに言えば役やってくれるよ」とか「あいつにはちょっと今回頼めんぜ、忙しいらしいぜ」とかも、わざわざお伺い立てんでもお互いに分かってくる。役とかは向き不向きもあるしね。

石原:若いとき嫌だったのは、その辺がまだ白井さんが理解できていなかったからでしょうか?

白井:やりたいことがいっぱいあったんだろうね。デートにしろ、友達とのサッカーにしろ、どこか遊びに行きたいとかにしろね。

石原:白井さんは若くて、もっとほかに友達とか彼女とか、大事にしたい趣味がある中で地域の役や行事を優先させて選ぶのはなかなか苦しかったわけですね。

白井:甘えてた歳なんだよね。20歳から40歳までは。でも今は、普段地域の仕事をするけど子どもが遊びに行きたいっていう時には「ごめん、今回ご無礼させてもらうわ」とか言えるような関係性になってきたよ。

石原:それを繰り返しているうちに、自分もその大事さとか、楽しさに気づかれたという感じでしょうか。

白井:加減が分かってきたかな。仲良くしておかなければこういうふうには振る舞えない。もっと言えば、家族のこともあるよね。先輩たちにも言われたね、「お前だけじゃねえぞ、「お前の妻と息子たちが地域で仲良くやっていくには、お前がそういう付き合いをしないといかんぞ」って。妻と子どものことが見えない家族になっちゃうと、地域のみんなも不安じゃん。

石原:地域のほうも「白井家どうなっとんのかな?」ってなっちゃうけど、白井さんが地域に出ていけば今、白井家がどういう状態か分かるから、ってことですね。

白井:そうだね。だから最後は土地じゃないね。その人間がやりやすいようにやれる、いろんな目的が達成できるような、信頼できる仲間を作る場所になれるかどうかだね。田舎っちゅうのは。

石原:だから移住してくる人としては、ちょうどいい距離感を作るために、1回はそういう役とかで地域に入ってみたほうがいいんですね。


どうしたらこのまちの入口が増えると思いますか?

白井:人口じゃなくて入口なんだ。

石原:いったん入口です。人口はついてくるはずです。

白井:それはあえてなんだ。これ人口じゃないの?って毎回突っ込まれてる?

石原:突っ込んでくれる人は突っ込んでくれます。突っ込んでもらいたいところなんですけど。移住じゃなくても来るきっかけとか、例えば川で遊ぶのも入り口だと思うんですけど。

白井:そうか、遊びに来るのでもいいのか。

石原:白井さんだったら、木を使ってもらうとかそういうことなのかもしれないし。あと白井さんと一緒に働いている従業員さんのお2人は住んでないけど、働くためにオクオカに入ってきているから、この製材所も入口ですよ。

白井:関係人口ってやつだな。コロナが流行ったとき「みんな川あそびの場所取りでケンカばっかしてるよ」って駐在さんに言われてびっくりしたんだよ。川遊びに来てケンカすんなよ、って。お前のものでもないし俺のものでもねえのに変なのって思って。

石原:取り合いするようなものじゃないですよね。

白井:俺なりの言い方で言わせてもらえば、空はつながっているし、川もつながっているもんで、入口、出口じゃないよと。あなたたちと関係している場所の1つなんだから。意識の中にあってほしいというか、当たり前のようにそう思ってほしい。

石原:いつごろからそういうことを意識するようになられたんでしょうか。

白井:強く感じたのは以前、金山に行ったときだな。林業関係者と学童保育の人が集まった「森と子ども会議」という集まりがあった時に、いろんな人たちと会議して楽しく飲んで帰るときに、ふと金山駅ですれ違う人たちは、山や川のことを1日の中で1秒でも考えているのかな?って思ったんだよ。この人たちは疲れてただ家に帰って1日を終えてっていう生活を、平気で10年、20年過ごしているのかもしれない。けどさ、その人たちに山とか川が関係ないわけないじゃん、って。だから入口、出口があること自体がおかしいんだよな。

石原:入口も出口もなくて、本当はみんなつながっている。みんな入口からすでに入っていると。

白井:そうだね。平日忙しい金山で歩いている人たちも、休日は川遊びに来てくれたらいいと思うよ。でもそれはケンカするために来るんじゃなくて、感じるために来てほしいよね。川と海と山、それで空でつながっているんだなって思ってほしい。山とか川が大事というか、大事にするのが普通なんだという目線で来てほしいし、帰っていってほしいし、これからも常に1日1回は考えるとかになったらいいよね。田舎がスタンダードだと思えば、まちの異常さというか住みにくさをもっと改善できるんじゃないかと思う。



インタビュアー

石原 空子

岡崎市の中心部で暮らす。自然と人との関わりの中で生まれた文化や暮らしを探求中。2児の母。