いったーん

オクオカの
暮らしにふれる

下山で生まれ暮らしつづける。家業を守りながら、地域の入口を増やす柴田さんにお話を伺いました。

オクオカ暮らしのインタビュー

移住したまちで、どうしたら上手く暮らしていけるのかな。どんな暮らしが待っているのかな。移住前に抱える不安。その答えは実際にこのまちで暮らしている人の中にそのヒントがあり、またそれはこのまちの新しい入り口なのではないかと思い、インタビューに伺ってみました。今回は「地域の魅力を伝える」「オクオカ暮らしに近づく」「オクオカと暮らす」の3つのテーマにそって5つの質問項目を設け、それぞれの中から1つずつ選んでもらい、お話を伺いました。そして、インタビューの最後に「このまちの入り口を増やすにはどうしたらいいと思いますか?」という共通の質問を投げかけ、お話を伺った方々の地域に対する思いを聞いています。

お話を聞いた人:柴田 秀和さん
生まれも育ちも下山の地元住民。194年の歴史を持つ酒蔵の8代目当主でありながら、地域活動にも積極的に関わる。
保久町(ほっきゅう)町在住

下山地区で実施する稲作体験プロジェクト(となりの田んぼ)をはじめ、様々なプロジェクトでご一緒することの多い柴田さん。柴田さんとは3年ほど前に、とあるプロジェクトの立ち上げを相談にのっていただいてからのご縁になります。柴田酒造場というオクオカ地区に限らず、市内外の多くの方に知られる酒蔵の八代目当主として、岡崎が誇る伝統産業を守りながら、地域の活動にも積極的に参加し、その人柄の良さから、たくさんの方が柴田さんを頼りに下山にやってきます。聞き手である私もその一人で、公私ともに大変お世話になり、まちなかに住ながらも下山地区という大切にしたいと思える場所に出会うきっかけ(入口)をいただきました。 今回はそんな柴田さんから、オクオカ(下山地区)の魅力やあまり聞く機会のなかった、休日の過ごし方等についてお話を伺いました。これまでにも数えきれないほどの、移住希望者からの相談を受けてこられた柴田さんだからこそ言える。そんなこれからこのまちに移住してくる方々に向けた、あたたかいメッセージをいただくことができました。

お話を聞いた日:2023年11月30日

このまちの魅力を教えてください。

柴田:まずはやっぱり自然豊かなところですね。空気が良いです、一年通して。夏も春も秋も、それぞれの空気感があります。田舎は田舎でも、地元の近く、下山の辺りまで来ると疲れが取れます。最近は田畑がちょっと荒れてきている所もあるけど、そこでも頑張っているみんながいる。みんなと会って、地元の言葉を聞くとほっとするから、それもいいね。

岩ヶ谷:地元の言葉って例えばどういう言葉ですかね?

柴田:岡崎の方も一緒だと思うけど、たまに帰ってきたりするときに使う「やっとかめ」とかですかね。「やっとかめだね」「元気でやっとったかん?」「元気かん?」みたいな。よく声かけてもらったりするんですが、そうすると自然と疲れが取れるというか、ほっとするというか。そんな気持ちになります。

岩ヶ谷:それは昔から変わらずですか?

柴田:そうだね。20代の頃からね。その時に声をかけてくれた人たちが、いまでは、80何歳とか、高木田さんより上とかの世代になりますね。だから言葉そのものというか、人ですね。何気ない言葉があとからじんわりと、温かいようなそんな感じがします。


休日の過ごし方を教えてください。

柴田:休日はなるべく農作業をしたり、草を刈ったり山の木を切ったりしていますね。

岩ヶ谷:柴田さんは木も切るんですね。

柴田:はい、大きな木だとチェーンソーを使って切ったりもします。なるべく体を動かして、農地の維持や整備をしていますね。下山は自然が近いので整備はやってて面白いですね。整備すればするだけ綺麗になっていくからね。

岩ヶ谷:それは感覚的には「整備しよう」という気持ちで行かれるのですか?

柴田:整備はしなきゃいけないことではあるけど、充実感というか達成感を得るために行ってるかも。「今日も綺麗にしたな!」っていう。あとは草刈り。伸びてくると自分は気になりますね。「そろそろやらないとな」みたいな。

柴田:下山の人たちはみんなそういう感じなんでしょうか?

柴田:そのパターンは多いと思います。友達とどっか行くとか、あまりないんじゃないかな。

岩ヶ谷:皆さん大体それぞれ山を持っていたり田んぼを持っていたりするわけですもんね。地域の外にお勤めに出ている方も、戻ってきた時には基本そういう風に暮らしている。

柴田:そうですね、兼業というかちゃんと管理しているね。移住してきたらぜひ田んぼ、畑をやって欲しいです。

岩ヶ谷:柴田さんはいま田んぼをどのくらいやられていますか?

柴田:去年は6反ぐらいやっていましたね。自分たちが食べるお米。

岩ヶ谷:6反って結構の量のお米がとれますよね?

柴田:結構うちは食べるもんでね。収穫できたお米の半分以上は自分たちで食べます。あとは親戚に配ったり、JAに売ったりしていますね。

岩ヶ谷:山もお持ちですよね?

柴田:山もたくさんありますね。下山にもありますが、隣町の新城や豊田にもありますね。

岩ヶ谷:どこが自分達が所有されている山かっていうのは分かるものなのですか?

柴田:親父に教えてもらったので自分は分かります。若い子たちにも伝えていかなければいけないけど、境界をどれだけみんなが把握してるか、今それが問題。少しずつ娘とか婿に教えてるんだけど、教えきれない。数が多いから、なかなかそういう時間をとることができない。山の管理はこれからすごく問題になると思う。


これからこのまちに移住してくる人に向けて一言おねがいします。

柴田:ルールじゃないけど、文化みたいなものがあるので、その辺は最初によく分かった状態で移住して来てもらえると良いなと思っています。このへんの人も、慣れてくるとよくしゃべってくれるけど、そうじゃない人も多少はいますしね。生活のパターンとか、特性みたいなものがお互いにあると思うので、そのあたりを少しでも理解した上で来てもらえると嬉しいですね。

岩ヶ谷:具体的にはどういうことがありますかね?

柴田:最近はイベントが少ないけど、わいわいと一緒に飲んだりとかですね。あとは田んぼなんかが本当に荒れ地が多いので、できたら1反とか農業資格なくてもやれるということになってきているのでやってもらうとありがたいですね。

岩ヶ谷:まずは地域に入っていくことを大切にしてもらいたいということですね。

柴田:そうだね。あとは、町内会費とかいろいろ高く思われると思うけど、どうしても世帯数が少ないのでその点も理解してもらいたいですね。

岩ヶ谷:なるほど。今いくらぐらいですか?

柴田:いろいろと合算していくと、年間で3~4万円ぐらいはあるんじゃないかな。多分市内だと5,000円とか、そういう価格だよね?

岩ヶ谷:それって町内会費ですよね?

柴田:うん。年間3,000円とか5,000円。あれが3万、4万はかかりますね。初めて来る方は、すごく高く感じると思うけど。中には、なんでこんなに高いのかって、使い道を公開するように求められたり、どこでどう使っているかを探られたり。結構最初にそれが問題になることもあったりしてね。「高いじゃないか、こんなのおかしいぞ」「どういう町だこれは?」みたいなお叱りの声も実際あるみたいですね。その後、僕らから一生懸命説明しても理解してもらえず、そのまま町内会に未加入という方も過去には何人かはいましたね。

岩ヶ谷:そういうこともあるんですね。最近は、イベントは減ってきていると思いますが、まずこっちに来たら来てもらいたい催しは何かありますか?

柴田:毎年4月に行われる「山桜を愛でる会」あとは「小さなやまがのウォーキング」ですね。あれはいいですよ、地域の皆さんのおもてなしもあって。

岩ヶ谷:僕はまだ、山桜を愛でる会に参加したことがないので、来年はぜひ参加したいなと思っています。

柴田:でも車で来ないほうがいいかもね。お酒飲みたいよね。

岩ヶ谷:そうですね、送り迎えしてもらうつもりで来ますね。少し話は変わりますが、柴田さんは、現在、下山学区の移住アドバイザーをやられているし、その前からも下山に住みたい方の情報が柴田さんのところに集まってくる感じだったと思いますが、そのあたりお話し聞かせていただいてもよいでしょうか?

柴田:会社の関係でね。確かにいろいろと相談を受けることがありますね。

岩ヶ谷:実際柴田さんの紹介で下山に移住してきた人もいらっしゃるんですよね?その方たちは皆さんすんなり地域に馴染めましたか?

柴田:馴染んでいると思いますよ。その内の一人は、今うちの従業員になってくれました。最初のころは一緒に結構わいわいやってたけど、いまは結婚されてます。今はまた、まちなかの方で暮らしていますね。奥さまが名古屋の方に勤めている方のようで、ここからではさすがに通うのは大変ということで。

岩ヶ谷:そうなんですね。下山に移住して来られて柴田酒造で働くってとても良い流れですね。

柴田:嬉しいですよね。従業員になってくれて、その後会社は辞めたけど、いまでも桜形(下山の隣町)に住んでいる人もいる。その子はずっとこっちの方に住んでいるね。そういう点では、馴染んでると思うよ。

岩ヶ谷:そうやって移住したいという方からの問い合わせは多いですか?

柴田:そんなに多くはないですね。年間3~4人くらいかな。空き家をあたって紹介したりしますけど、なかなか決まらないですね。なかなか難しいんですよ。


どうしたら、このまちの入口が増えると思いますか?

柴田:いまやっている農用地の保全(となりの田んぼプロジェクト)、あれも入口になると思う。あのイベントを通して、担い手になってくれたら最高だよね。あとはこの頃婿たちが始めた「蔵cafe一合」とかね、ああいう場所ができることも入口を増やす取り組みになると思っています。

岩ヶ谷:カフェは今日営業してましたっけ?

柴田:営業してますよ。さっき覗きましたが結構いっぱいでした。最近では古民家宿みたいなものもありますけど、そうやって年間何回か遊びにくるのも良いなと思います。

岩ヶ谷:そうですね。いきなり移住というよりは、まずは体験みたいなものが増えてくるといいということですかね?

柴田:そうですね。あとは「山桜を愛でる会」みたいな取り組みにも招待したりしてね。そうやって下山に来るきっかけが増えると良いなって思います。お酒でいろいろと話題になったりすると、遠くから下山まで皆さん買いに来てくださっている。さっきの方は滋賀県からで、ここの酒がおいしいんです、って。いちど買ったらはまっちゃって、その後、休みになると来てくださる。埼玉からも来られる方もいらっしゃいます。

岩ヶ谷:ネットでも買えると思うんですけど、わざわざ下山にまで来て買われるんですね。

柴田:来て買うんだね。いっぺん見たいんじゃないかね。

岩ヶ谷:「蔵cafe一合」があったり、「となりの田んぼ」を開催したりというのは、比較的最近の動きだと思うのですが、過去、下山で入口になり得るような仕掛けは他にどういうことをやられていたんですか?

柴田:さっきの「小さな山がのウォーキング」とか「山桜を愛でる会」とかはもう20年近く実施していますよ。他には、名古屋の川中小学校との「田んぼ交流会」かな。あれは僕がPTAの役員の時に始めた取り組みですね。

岩ヶ谷:知り合いが川中小にいて、こちら側から声をかけたということですか?

柴田:そうだね。ロータリーかなんかの人が交流事業を打診してきて、やりましょうってなった感じでしたね。

岩ヶ谷:それが今でも続いているってすごいことですね。

柴田:もう20年前くらいになるね。うちの子が小学校のときだもんで。

岩ヶ谷:歴史ツアーもやっていますよね?

柴田:歴史ツアーやってますね。遠山さんや杉浦さんにガイドをお願いしたりしてね。

岩ヶ谷:今も行われていますか?

柴田:今もですね。

岩ヶ谷:柴田酒造さんが中心になって声かけして、そこから地域の人がガイドになって案内しているってことですか?

柴田:いえ。歴史ツアーは岡崎市と一緒に行う取り組みですね。1年に1回か2回。岡崎の広報誌で募集して、10人ぐらいの規模で史跡を歩いて回ります。

岩ヶ谷:そういう意味では入口になり得るような取り組みは、下山にはたくさんありそうですね。最初の話につながりますけど、人がいいっていうところから始まって、ちゃんと人を迎え入れる体制も整っていますし、取り組みもあるということで、そういうところに参加して、入口が増え続けていくといいですね。

柴田:そうだね。下山はまとまりのよさもあるよね。バカでかいといろんな人がいてそれぞれになっちゃうけど、ここだと誰かが何かを言えば「じゃあやるか」って話がまとまる。ほんと人がいいですよ。



インタビュアー

岩ヶ谷 充

8年前に岡崎市に移住。川とともにある暮らしの実現を目指し、地域の人々と活動を行う。犬が好き。